人工言語

皆は、「人工言語」という単語を耳にしたことがあるだろうか。人工言語とは、字面の通り人の手によって、つまり人工的に作られた言語のことだ。

 

本来、言語は自然に長い時を経てできるものだ。たとえばヨーロッパのほぼ全域で話されているインド・ヨーロッパ語族は、大昔にインド・ヨーロッパ祖語が存在し、それがラテン語やスラヴ祖語になったりして、それらがさらに細かい方言に分かれて言語ができていった。一方、人工言語は人間が意図的になんらかの言語をもとにして語彙を作ったものだ。この話を聞いて、本当にそんなものがあるのか気になる人もいるだろう。今回は、代表的な人工言語であるエスペラント語を紹介したい。

 

エスペラント語の生みの親は、ユダヤポーランド人の眼科医であるラザロ・ルドヴィコ・ザメンホフだ。彼は1859年に当時ロシア帝国領だったポーランドに生まれた。当時のポーランド多民族国家で、信条や言語などの違いに起因する争いが絶えなかった。その中で彼はこれらの違いを克服できる言語を作り、「エスペラント博士」というペンネームで新言語を発表した結果、「エスペラント語」と呼ばれるようになった。因みに、エスペラントという言葉はスペイン語esperanza(エスペランサ)などと同じように「希望」という意味を持つ。

 

次は実際にエスペラント語の構造を見てみよう。ありがたいことに、エスペラント語の話者は世界中に100万人~200万人いると言われており、日本でも白水社から「ニューエクスプラス エスペラント語」が発売されている。興味がある人はぜひ。

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それでは早速本題に入ろう。まずは挨拶。

Bonan Tagon こんにちは

Saluton やあ

Dankon ありがとう

Ĝis morgaŭ また明日

Ĝis revido さようなら

 

ゲルマン系やラテン系の言語を習ったことのある人なら、簡単に理解できるだろう。まず、Bonan は「良い」を意味するイタリア語Buonやフランス語のBonから、そしてTagonはドイツ語のTagから。Salutonはフランス語のSalutから、ありがとうはドイツ語のDankeやオランダ語のDankから。下二つドイツ語のBis morgenやBis(~まで)という言葉からできているのがわかる。revidoは接頭辞のre(また)とラテン系のver(見る)を組み合わせでできている。

 

次は挨拶以外の単語を見てみよう。

mi 私 

ni 私たち

vi あなた、あなたたち

li 彼

ŝi 彼女

ĝi それ

ili 三人称複数

studento 学生

elefanto 象

jes はい

ne 〜ない

nun 今

en 〜の中で

domo 家

 

こうしてみると、ラテン系やゲルマン系の言語にある語彙が多いことがわかる。まず人称代名詞は英語やスペイン語、そしてフランス語などにとても似ている(フランス語の一人称複数はnous、二人称複数はvousである)。mi,ŝi  が英語のme,sheなどから由来しているのは一目瞭然だろう。そして学生、象、はい、〜ない、英語やドイツ語に似ている。enはスペイン語やフランス語の前置詞en、domoは意味からすればロシア語などのдом(dom,家)から来ているだろう。

 

どうだっただろうか。確かに、現在では英語の地位がとても強く、エスペラント語の話者は少ないが、英語以外に新しい言語を修得したいという人にはとても良い言語だと思う。ぜひ、新しい言語を学んで、新しい価値観を身につけてほしい。До свидания.