死語について

・「死語」とは

みんなは「死語」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。日常的には「使用されなくなった単語」を意味する場合が多いが、言語学的には「使用されなくなった言語」を意味する。今回は、「死語」や消滅の危機にある言語を見ていきたい。

 

・世界の言語

Ethnologueによると、世界には7,000もの言語があることがわかっている。しかし、世界の半分以上の人はたった23の言語しか話していない。その中でも特に多くの人に話されているのは、中国語、ロシア語、英語、フランス語、アラビア語スペイン語だ。私たちが話す日本語は大抵ドイツ語の次の9位または10位にランクインしている。これらの言語をよく見ると、国の人口が多い国またはかつて帝国主義時代に多くの植民地を保有していた国の言語が多い。これらが先住民の言語を抑圧しつつ世界中に広まった結果、「死語」を生み出しているのだ。

 

・どんな言語が「死語」なのか

それでは、具体的にどんな言語が「死語」なのか。昔の言語なら、世界史でも出てくるヒッタイト語やシュメール語がそれに相当する。これらの言語はそれらが元々使われていた地域に流入した他民族の言語に吸収され、使われなくなった。最近なら、インドのアンダマン・ニコバル諸島で話されていたボ語は2010年に消滅した。2010年に最後の話者のBoaさんが亡くなったのだ。ボ語の話者はインドに65,000年前から存在していたとされ、言語の消滅によって受けた文化的ダメージは大きいだろう。

 

・消滅の危機に晒されている言語

「死語」の他に、将来的に消滅すると思われる言語も多数存在する。実際のところ、言語にはユネスコによって言語の状態にランクがある。消滅の危機がないのは「安全」とされ、脆弱、危険、重大な危険、極めて深刻を経て消滅に至る。私たちが話す日本語で考えれば、「極めて深刻」に値するのがアイヌ語、「重大な危険」が八重山語与那国語、そして「危険」が八丈語奄美語、国頭語、沖縄語、宮古語だ。アイヌ語母語話者は80歳を越え、話者人口も10人ぐらいのため、消滅の可能性は非常に大きい。奄美や沖縄の方言においても、過疎化や人口の減少が進み、母語話者は減少している。また、イギリスでは今月2日にスコットランドで使用されるゲール語が消滅しかかっていると発表された。ゲール語の話者は1981年から2011年にかけて話者数がほぼ半減し、残りの話者も大半は50代以上の人で、若者への継承も進んでいないらしい。そのため、今後10年以内には消滅してしまうと考えられている。

 

・言語を消滅させないためには

ゲール語などの消滅の危機に瀕する言語を消滅させないためには何をすべきなのか。いくつかの方法が考えられるが、まずは若者への継承が最優先だろう。残り少ない話者が子供や孫世代に少数言語を教えることで、消滅を少しでも防ぐのだ。しかし、若者たちは社会的に優勢な言語を母語としているため、たとえば英語と全く違う語族のゲール語を習得するには時間がかかる。2つ目は言語の記録を行うことだ。これは言語学者の仕事になる。言語学者は消滅の危機に瀕する言語の話者のもとに足を運び、彼/彼女が話すのを録画・録音したり、記述したりする。それから言語学者たちは文法や文字を分析することで教材を作れるし、言語コミュニティの支援もできるようになる。教材が出版されればその言語を学んだことがないものもその言語を習得することが可能になり、その言語の専門家が生まれる。その言語を教えることができる専門家が生まれれば、学校を設立することもでき、言語の消滅は免れる可能性が高くなる。この方法は言語学者の行動さえ早ければ成功の可能性も上がり、現実味がある。3つ目は、政府が消滅の危機に瀕する言語を支援することだ。国家によっては標準語ではない少数言語を法的に認め、言語集団の活動を保護するケースも見られる。ただし、これはあくまでも活動の保護であり、消滅を防ぐこととは必ずしも直結しない。

 

・言語は生きる文化

言語はその国家や言語集団の文化を反映している?また、言語は時代の流れによって新しい語彙や表現が誕生し、常に進化を遂げている。つまり、言語は生きる文化なのだ。私たちが話す日本語もその一部だ。日本では標準語の導入によって方言の力が弱まり、方言をあまり話さない人も増えた。方言が忘れられつつある今こそ、私たちが古来から話される方言を見つめ直し、その方言が持つ文化を尊重し、保全するべきではないのか。