英語は本当に世界の共通語なのか

日本人は「外国語」という言葉を耳にすると、英語を思い浮かべることが多い。それは私たちが小学校から外国語として英語を学んでいるからだ。しかし、場所によっては外国語といえば英語以外の言語を思い浮かべる人もいる。その典型例が旧ソ連圏だ。

 

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上の図は、ロシア語が公用語として使われている、もしくはロシア語の通用度が高い国及び地域を示している。青い国はロシア語が公用語の国だ。ロシア、ベラルーシキルギスカザフスタンがロシア語を公用語に制定しており、この四カ国だけで1億6000万人がロシア語を話していることになる。ロシア以外の3カ国はロシア語以外にそれぞれの民族の言語(ベラルーシ語、キルギス語、カザフ語)を公用語化している。水色に青い斜線がかかっている地域はロシア語を公用語として使っている未承認国家と占領地域だ。これには、近年ロシアに占領されたウクライナクリミア半島モルドヴァ沿ドニエストル共和国(未承認)、ジョージア(グルジア)の南オセチア共和国・アラニヤ国(南オセチア自治州)、アブハジア共和国(アブハジア自治共和国)が独立を承認含まれる。クリミアにはロシア語話者の方がウクライナ語話者よりも多く、夏になると多くのロシア人で賑わうビーチもある。沿ドニエストルモルドヴァのロシア系住民がソ連末期のモルドヴァ民族主義に反対してティラスポリを首都として建国された。一応日本人も入国はできる。国旗はソビエト連邦の国旗でも使用された金の鎌と槌を使っている。

 

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沿ドニエストル共和国の国旗

 

南オセチアアブハジアはオセット人(イラン系)とアブハズ人(北西コーカサス系)のほかにロシア人も住んでいるらしいが、きな臭い地域なので日本人が行くことはないだろう。そしてそれ以外の国は、ロシア語が公用語ではないが、ロシア語の通用度が高い国だ。これにはバルト三国(ロシアと決別したため英語の方が多分いい)、キルギス以外の中央アジア(トルクメニスタンウズベキスタンタジキスタン)、モルドヴァウクライナ、トルコの東にあるコーカサス地方ジョージア(グルジア)、アゼルバイジャンアルメニア、モンゴル、そしてイスラエル含まれる。ウクライナモルドバでは看板などは現地語で、日常会話はロシア語だ。これはベラルーシにも当てはまる。現地語よりもロシア語の方が得意というのは、日本人からすればなんとも不思議な現象だろう。見て分かるとおり、旧ソ連の構成国がほとんどだ。意外なのがモンゴルとイスラエル。モンゴルの公用語モンゴル語キリル文字で書かれるため、モンゴル人は英語よりもロシア語を得意とする人が多いらしい。非スラヴ系かつ仏教国なのにキリル文字を使う理由は、モンゴルが昔ソ連の影響を受けて世界で2番目かつアジア初の社会主義国家だったからだ。一方、イスラエルにはロシア出身のユダヤ人(アシュケナジム)が多いため、ロシア語を話す人もいる。イスラエルの政府や企業はロシア語表記を併用しており、ロシア語話者が多く住んでいる。もちろん、現在はソ連が崩壊し、旧ソ連圏にも西側の文化が入ってきたため、若い人は英語を話す。数十年後にはロシア語の権威は弱まっているのかもしれない。

 

最後に、自分が英語が全く通じない場所に行った経験を話したい。数年前に東欧のポーランドに行った。首都のワルシャワや大都市のクラクフでは英語は通じることもあったが、ワルシャワ中央駅の窓口で英語を話すと嫌な顔をされ、ワルシャワ郊外のジェラゾヴァ・ヴォラ駅では全く英語が通じず、窓口のおばさんは終始私たちにポーランド語で話かけていた。また、お隣のチェコプラハでも英語はまあまあ通じたが、辿々しい人もいた。ハンガリーブダペストフランツ・リスト博物館で楽譜を買う際に英語で"How much is this?"ときいても何も言われず、ただ値札を指された。簡単なフレーズは多分理解できるのだろうが、自分から話すことはできない人だったのだろう。やはり旧共産圏の東欧では英語が完全に通じるとは言い難い。つまり、英語を覚えるだけでは不完全で、中央アジアや東欧に行く際にはロシア語を覚えて行った方が便利だろう。